封印「封印再度」

なの

−第1回、同時多発「おふみ」記念作品−

「封印再度」「小説現代97年5月増刊号メフィスト、特別対談 京極夏彦vs森博嗣」さらに清涼院流水「ジョーカー」、ついでに「笑わないシリーズ2」のネタバレがあります。未読の方はご注意ください。


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 萎絵は、読み終えた「封印再度」を閉じた。
「ばかね、萌絵ったら。あんな嘘、ばれたらどうなるかわかりそうなものなのに...」

 院生室では、波木がパソコンのモニターに向っていた。
「波木さん!」
「やあ、東之園さん」
 モニターに向ったまま、波木が答える。
「あれ〜?波木さん...これ、何です?」
 萎絵はモニターの画面を見て、不思議そうな顔をする。
「あーこれ?...BBSというのを始めたんだよ。全国から、色々な人がインターネットを通じて意見を述べ合う。ぼくはまあ、その管理人といったところだね」
「へぇ〜。おもしろそう」
 萎絵は、画面に見入る。
「でも、なんだか...、みんな年齢のことばかり話題にしてるわ。誰?このぼそぼそ言っているひとは?」
 あちらこちらを見ているうちに、意外と萌絵のファンが多いことに気づき、萎絵は少しうれしい気分になる。
(あれ?...なんだかおかしい...)

 おなかの大きな桜子が、ドアから顔を覗かせた。
「波木君。貴方、こんなとこで何してるの?計算は?」
「うへぇ、あの...いまやってます」
「やってないじゃない。ところで東之園さん、電話よ」
「すみません。国幹先生」
「私は国枝よ。間違えないでね」
(あれ?...また、この感覚...)

 電話は嵯峨野からだった。
「お嬢様、申し訳ございません」
「え?何かあったの?」
「お嬢様の並々ならぬ強いお言いつけとは申せ...、この諏訪野、不覚にも...」
「ああ!もうじれったいわねえ。どうしたの?」
「先生が...そちらにおいでになります」
「浅野川先生が?...それがなにか...」
「いえ、浅野川?ではなく...あの、その...」

 そこへ新たな声が、部屋から聞こえてきた。
「犀川@N大です」
 清涼院流水も使用しないような「アットマーク」付きの怪しげな名乗りに萎絵が振り返ると、そこにいるのは上を向いて頭を抱えた浅野川だった。
「なんて、子供なんだ!君は...。ああ!」

 叫んでいる浅野川の声がだんだん遠くなっていく...
(何かが、私のまわりで...私以外の世界が変わっている...何なの?これは...そういえば、BBSの管理人が「波木」なのもおかしい。今までのケースなら、「波本」とか「凪木」とかになるのに...)

 その波木が、萎絵に声をかけてきた。
「そうそう、今日これから、BBSの「オフミ」があるんだ。いっしょに来ない?」
「オフミ?」
「うん。『おふみ』と言う人もいるけど。オフ・ミーティングといってね、普段、オンライン上でしか逢えない人達が集まるんだよ」
「おもしろそう!私、行きます」
 異様に回復力の速い萎絵は、波木とともに院生室を出た。
 後に残された浅野川(犀川?)は、まだ、向うをむいて一人で何やら叫んでいる。
「...この十年間で一番、頭にきたね...いったい、人の時間を何だと...」
 院生室のドアがぴたりと閉じられた。

 店に到着すると、既に何人かの老若男女が席についていた。
(老若男女...いったい、なんて読むのかしら?)
 萎絵は考えこみながら、ふと向うの席を見ると、一人の手袋をした怪しい男がこちらを見ていることに気づいた。
(誰...?)

 そのときである。今、店に入ってきたばかりらしい男の声が、萎絵の肩越しに聞こえてきた。
「波木くん、マックがまた飛んだみたいだけど...でも、本当にフライングしたんじゃないよ」
 萎絵が思わず振り向くと、そこには「フォーク系」−不思議なことに萎絵の頭にはその表現が浮かんだ−の男がぽつんと立っていた。
「あ、あなたは...?」
 そして、なぜか向うの席で安堵する手袋の男...

 それから、フォーク系の男は、
「○○でーす」
と言いながら、背中のバッグから...


以下、リレー小説「堪忍毎度」(仮題)につづく。
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